ジャケットは良いんだけど...
人間ドックの一日。1年に1回、ちゃんと受診しているが、悪いところは無いんだろうなあ、と受診前に気になる年頃になったので、あんまり良い気分では無い。それなりに悪いところは悪いからなあ。
閑話休題。ジャズの話題になる。今年、ウェザー・リポート(以下WRと略)のアルバムをデビューアルバムから計画的に順番に聴き進めている。WRは70年代の最優秀バンドである、と盲目的に評価されているが本当か、という所がポイント。
さて、結果的に、創立当時のキー・メンバー、ミロスラフ・ビトウスを、音楽的にいびり出したジョー・ザビヌル。その心は「もっと売れたい」、加えて「俺一人でもいける」。ビトウスの置き土産「Boogie Woogie Waltz」。ビトウスが去った後、他の曲はもうエレクトリック・ファンクジャズの世界。そんな中、リリースされた『Mysterious Traveller』(写真左)。
冒頭の「Nubian Sundance」を聴くと、WRの何かが変わったことに気が付く。バンドの基本ビートは、ファンクから、アーシーな野趣溢れるアフリカンなビートに変化した。そして、驚くことに、10分43秒の長尺曲ではありながら、双頭リーダーの片割れ、ウェイン・ショーターのサックスが全く目立たない(とういうか、登場していない?)。2曲目の「American Tango」の途中、ショーターが出てきて、なんだかホッとする。う〜ん、これがザビヌルの「ひとりでできるもん」かあ〜。
でも、全編に渡って、ザビヌルのキーボードは精彩が無い。というかシンセにかなり苦闘している。もともと当時、電子キーボード、特にシンセの精度は、まだまだ稚拙だった。一人のミュージシャンに全てを扱いこなせるものでなかった。それにしても、ザビヌルのシンセの扱いは稚拙やなあ。チックはもとよりハービー以下、というか、ハービーの足下にも及ばん。
ただ、このアルバムでの成果は、ワールド・ミュージック的要素の導入だろう。おそらく、ファンキーなビートは既に他のジャズ・ミュージシャンが皆導入していたので、エレクトリック・ファンクジャズでは人気を博すること、爆発的に売れることは難しいと考えたのだろう。
そのザビヌルの着目点は良いんだが、当のザビヌルのキーボードが、そのワールド・ミュージック的ビート、いわゆる「アーシーな野趣溢れるアフリカンなビート」に付いていっていない。
恐らく、ベーシストの問題だろう。ドラムはリズム、ベースはビート。「アーシーな野趣溢れるアフリカンなビート」で大事なのは、ベースのライン。この『Mysterious Traveller』時点でのベーシスト、Alphonso Johnsonは優秀なんだが、アーシーなアフリカンビートは範疇外。ビートが上手く供給されないと、そのビートの上に旋律を乗せていく電子キーボードは辛い。
この『Mysterious Traveller』は、「アーシーな野趣溢れるアフリカンなビート」をベースとした、様々なコンセプトを持った演奏のショーケースである。後のバンドの音楽的指向のベースとなる「エスニック&ユートピア」のショーケースとも言えるが、如何せん、曲毎の出来が、どれもが中途半端。フラグメンツとしては素晴らしいフレーズもあるが、曲全体としては中庸な出来であることは否めない。
アルバム全体の雰囲気は、中途半端な「エスニック&ユートピア」。そして、ザビヌル一人では、バンド・コンセプトの確立には限界があることが如実に理解できる。そして、ショーターはザビヌルに荷担することに興味は無い。ザビヌルが思うほど、「もっと売れたい」、加えて「俺一人でもいける」という意欲は、ザビヌル一人の力では実現できない。
まだ、この『Mysterious Traveller』では、ザビヌル「Weather Report」の個性は感じられない。そのザビヌル「Weather Report」の個性が確立するのは、かの天才エレベ奏者、ジャコ・パストリアスが参加してからのことである。
ジャケット・デザインは良いんですけどね〜。「Mysterious Traveller」ということで「彗星」のイラストをあしらったジャケットはとても魅力的です。でも、その内容とはいうと、今の耳で聴くと、物足りないなあ、というのが、私の正直な感想です。発売当時は、稀代の名作とも思ったんですが・・・。
時代の進歩というのは尊いものです。演奏する方のレベルも、聴く方のレベルも、共に高くなって、より高いレベルのジャズを現出していくんですね。
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