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2009年8月 6日 (木曜日)

三大ロックギタリストの一人な訳

70年代ロックの中で「三大ロック・ギタリスト」というネーミングがある。エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの3人のことである。

ジェフ・ベックは職人芸的な、凄まじくテクニカルなインスト・ギターで一世を風靡した。ジミー・ペイジは、かの伝説的ハードロック・グループ「レッド・ツェッペリン」のリード・ギタリストとして、テクニック的には、ジェフ・ベックの後塵を拝したが、天才的な作曲とプロデュース能力の下で繰り出した印象的なフレーズ、キャッチャーなリフは、ジェフ・ベックを遙かに凌ぐ。そういう意味で、ジェフとペイジは、三大ロック・ギタリストの一人、と言われても、僕は納得できる。

が、しかし、エリック・クラプトン(Eric Clapton)ってそうなのか。と高校時代に思ったことがある。それも当然のことで、70年代クラプトンは、米国南部ロック、スワンプに走り、麻薬に染まってカムバックしてからは、リラックスした(リラックスし過ぎた?)レイドバック的演奏が中心だった。80年代に入るとアルマーニを着たロックAORと化し、90年代以降は、金持ちのブルース奏者、最近では、同窓会好きの好々爺である(笑)。とても、テクニック溢れる、煌めくアドリブを繰り出す、攻撃的なロック・ギタリストではなかったからなあ。一聴して、凄いと判るテクニックではない、味のある余裕あるフレーズが、実は、凄いテクニックが裏に無いと弾きこなせないものだ、と判ったのは後のこと。

クラプトンの場合、三大ロック・ギタリストの一人として、挙げられる訳を理解するには、ちょいと時代を遡る必要がある。1968年、クラプトンの所属した伝説のロック・トリオ、クリームの最終作『Goodbye』(写真左)に遡る必要がある。クリームと言えば、ジャック・ブルース(b,vo), エリック・クラプトン(g,vo), ジンジャー・ベイカー(ds)で、1966年、結成されたロック・トリオ。ジャズの即興演奏の要素とブルース・ロックを融合したサウンドが特徴の英国のロックバンド。その暴力的、創造的なインプロビゼーションは、今では伝説である。

この『Goodbye』を聴けば、クラプトンのギター・テクニックの素晴らしさを体験できるだろう。冒頭の「I'm So Glad」を聴けば、当時の解散直前のクリームの状態とクラプトンのテクニックの素晴らしさの2つが一気に体験できる。最初は3人仲睦まじく、主旋律となるボーカルをハーモニーを交えながら歌っていく。
 

Cream_goodbye_2

 
そして、インプロビゼーション部に入ると、まず、ジンジャー・ベイカーのドラムが力任せに叩きまくられる。そして、異様なボリュームでジャック・ブルースのベースが轟音のように轟きまくる。インプロビゼーション部の前半は、ドラムとベースの、「どちらの音が大きくてインパクトがあるか」という、アーティステックな側面を全く無視した、楽器を使った喧嘩である。

クラプトンは、最初は格好をつけて、メロディアスなフレーズを綺麗なテクニックでピロピロ引き続ける。到底、ベースとドラムには敵わない。勝ち誇るようにボリュームを上げるベースとドラム。と、インプロビゼーション部の途中、クラプトンが「プッツン」する。スカしたような格好良さを捨てて、ギターのボリュームを上げて、ベースとドラムに挑みかかる。ギターの最大の武器である早引きとコード弾きのアグレッシブなギターソロを繰り広げる。そのテクニックときたら、そりゃー凄まじいこと凄まじいこと。ジェフもペイジも真っ青である。

そして、4曲目の「Badge」はクラプトンの手なる名演であるが、1968年にして、この曲の雰囲気は「スワンプ」、そして、適度にリラックス、そう「レイド・バック」している。この「Badge」は、後の70年代クラプトンを予言する演奏である。この曲はジョージ・ハリソンも作曲に加わっており、自らギターで演奏にも参加している。こうやって振り返ってみると、ジョージはクラプトンにとって、公私にわたって、かけがえのない、必要不可欠なミュージシャンであったといえる。

これまで具体的に曲名を挙げた2曲以外の他の収録曲も、その演奏内容は凄まじい。電気楽器の技術がまだまだ稚拙だった頃、優れたミュージシャンの創造力とテクニックに、電気楽器の表現力が全くついて行けてなかった頃。そんな時代に、このクリームの演奏は奇跡に近い出来事だと僕は思います。

このアルバムのクラプトンを聴くと、三大ロックギタリストの一人な訳が納得できます。この頃のクラプトンって弾きまくってたんやね〜。クリームの諸作の中では、なぜか影の薄い作品ですが、なかなかの内容で、個人的に、クリームのアルバムの中で、かなりお気に入りの部類のアルバムです。 濃いクラプトン・ファンの方なら、買って損は無い作品だと思います。なかなか良いアルバムです。
 
 
 
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コメント

ジェフは、アドリヴ系はいいけど、バックバンドとしては失格(協調性が無い)
ペイジは、you tubeでみる限り、下手すぎ・・・。
エリックは、リードもバックもそつなくするタイプ。三者のどちらに需要があるか?
・・・。

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