特集・夏の思い出のアルバム・6
さあ、あと残すこと2日。今日は「特集・夏の思い出のアルバム」の六日目。大学3回生の夏である。大学3回生の夏のイベントと言えば「北海道旅行」。ワイド周遊券一枚で、約1ヶ月、北海道にいた。だから、旅行というよりは、彷徨というか「旅」というか、とにかく、夜行列車の車中泊(しかも普通車自由席・笑)だらけの「貧乏旅行」だった。しかし、この北海道旅行は、僕の人生にとって、最初の大きな「転機」となった。
大学2回生当時、精神的に調子を崩し、その影響で体調を壊して、人生最悪のスランプに陥った。で、どうしたら、その状況を好転できるのか皆目分からず、悶々としていた大学2回生。どうしても環境を変える必要もあって、秋からは自宅を出て、大学近くの下宿に移った。そして、良いお医者さんに巡り会い、回復基調となり、いよいよ大学3回生の夏である。その過去1年間で全く綺麗サッパリ無くしてしまった、自分自身に対する「自信」を回復する必要があった。
親友と話し合って、思い切って長期の旅に出よう、となって選んだ場所が「北海道」。当時、流行のバックパックを背負っての「カニ族」よろしく、大阪駅より夜行列車に乗る。その名は急行「きたぐに」。貧乏旅行である。座席は当然、普通車の自由席(寝台車では無い)。大阪から青森まで、約20時間の長時間移動である。そして、青函連絡船(もうかなり前に廃船になりましたね)に乗り継いで約4時間。つまり、丸一日乗り物を乗り継いで、北海道は函館への上陸行であった。今なら飛行機で1時間半程度。隔世の感がある(笑)。
北海道に上陸後、約1ヶ月の滞留だったが、当然、バックパックの中には、小型のカセットテレコを積み込み、約10本程度のカセットテープを持って行った。テープの中身は「70年代ロック」ものと「ジャズ」ものが半々。そして、特に、この北海道旅行で聴きまくったアルバムが、渡辺香津美の『KYLIN』(写真左)。このアルバムは、夜行列車が発車する時に、夜行列車の中での一日の始まりに、必ず聴いていた「お守り」の様なアルバムである。
参加メンバーを並べると、渡辺香津美(g)坂本龍一(key,syn)矢野顕子(p)村上ポンタ秀一(ds)高橋ユキヒロ(ds)向井滋春(tb)本多俊之(as)清水靖晃(ts)小原礼(b)益田幹夫(key)ベッカー(per)。今でもこの参加メンバーを見ると「うへ〜っ」と声を上げてしまう。
良くこれだけのメンバーを集めたなあ、と感心もするし、呆れもするし(笑)。ジャズ側からすると、特に、坂本龍一(key,syn)矢野顕子(p)高橋ユキヒロ(ds)小原礼(b)に目を惹かれる。この辺は日本ロック畑。坂本龍一、高橋ユキヒロは、YMOの中核メンバー。これはもう、異種格闘技風のメンバー構成である。
内容的には、渡辺香津美(g)坂本龍一(key,syn)が、がっぷりと組んだ「一期一会」的なアルバムである。渡辺香津美(g)坂本龍一(key,syn)が組むことによる、音楽的「化学反応」がアルバムのあちらこちらに炸裂していて、それはそれは、シリアスでユニークで高品質な内容の濃い「ジャズ・フュージョン」アルバムに仕上がっている。
ドラマーが2人いるのがミソで、LPでいうA面は「村上ポンタ秀一」が叩き、B面は、なんと「高橋ユキヒロ」が叩いている。全体の傾向としては、村上ポンタ秀一が叩くA面は、当時最高の部類のジャズ・フュージョンの演奏がギッシリ詰まっている。これって、今の耳で聴いても、ぶっ飛びます。
で、B面はと言えば、高橋ユキヒロが叩いているであるが、彼独特のドラミングをバックに、渡辺香津美、坂本龍一、矢野顕子、小原礼が融合し、音楽的化学反応を起こして、このアルバム独特の、具体的形容不可能、ジャンル定義不明な音楽が詰まっている。一言で言うと「テクノ・フュージョン」とでも言ったら良いのか・・・(ダサイ形容ではあるが)。
どちらがお気に入りかと言えば、僕はB面が絶対。A面も大好きで、今でも「リスペクト」の対象となる演奏内容であるが、B面の「テクノ・フュージョン」には及ばない。B面の「E-DAY PROJECT」「AKASAKA MOON」「KYLIN」「I'LL BE THERE」「MOTHER TERRA」、どれも凄い出来である。
でも、僕はこの凄まじい内容のそれぞれの曲の中で、短い曲ながら「KYLIN」が絶対である。この「KYLIN」のポジティブな音のトーンが実に心に響くのだ。明日に向かって歩いて行くような明るさ、テンポ。メンバーそれぞれが対等に演奏を繰り広げる、ニューオリンズ・ジャズの様な「テクノ・フュージョン」。ホントに不思議な雰囲気のする演奏である。ジャンル不明の名曲名演である。
大学3回生の夏。北海道旅行の朝は、この渡辺香津美の『KYLIN』を聴くことから始まった。1曲目の「199X」の村上ポンタ秀一のドラミングで頭が活性化され、夜行列車で寝不足の脳が目を覚ます。そして、B面3曲目の「KYLIN」を聴いて、心を全面的にポジティブな状態へスイッチする。そんなアルバムなのである、この渡辺香津美の『KYLIN』ってアルバムは。大学3回生の北海道旅行以来、この渡辺香津美の『KYLIN』は、僕にとってのカンフル剤の様な役割を果たしてくれている。心の元気の源となるようなアルバムである。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
« 特集・夏の思い出のアルバム・5 | トップページ | 特集・夏の思い出のアルバム・7 »
はじめまして


私もKYLYN大好きなんです 30年前は坂本龍一…誰?みたいな感じでしたね
私はE-DAY…のアレンジにしびれてました
今聴くと香津美のギターは少しだけ古くさいかな
最近思うけど70年代後半の音楽シーンは熱くてみんな真面目でしたね
投稿: トチカ | 2009年8月16日 (日曜日) 16時22分
初めまして、トチカさん。松和のマスターです。
「E-DAY PROJECT」も良いですね〜。ボコーダーの響きが今でもユニークで、
ついつい繰り返し聴いてしまう『KYLIN』のB面。CDでは、5曲目以降ですね。
渡辺香津美のギターが古くさく聴こえるのは、ギターという楽器の技術的な
進歩を考えると仕方の無いことでしょう。フレーズにしても、ギターって、
それぞれの時代の流行の影響を受けやすい楽器でもありますしね。
兎にも角にも『KYLIN』は良いです(笑)。
投稿: 松和のマスター | 2009年8月16日 (日曜日) 17時44分