特集・夏の思い出のアルバム・3
さて「特集・夏の思い出のアルバム」特集の三日目。今日は高校3年生の夏である。大学受験の年、受験勉強に勤しむべき夏に、なぜか、これまた映画を作っている松和のマスター(笑)。今度は、映研では無い、3年のクラスの文化祭向けの映画である。
日本昔ばなしの実写版という設定。15分もの3本というボリューム。大変なことを請け負ったと思った。でも、すすんで請け負った訳では無い。映研出身なので映画の作り方は知っている。でも、映画はそんなに簡単に出来るものでは無い。チームワークの産物である。一旦は反対した。それでも何とかお願い、と迫ってくる。クラス全員が協力するなら、という条件を出した。受験の年である。全員一致で賛成ということはあるまい、と思っていた。しかし、クラス全員一致で賛成、クラス全員が協力ということに相成った。
アマチュアの映画製作という作業は、詰まるところ、監督に何から何まで負担が集中する作業である。クラスメイトはそんなことは知る由もない。担任の先生に何度も確認された。「大学受験やぞ。お前、それでええんか。今からでも遅くないぞ。先生から皆に翻意をお願いしてもええぞ」とまで、本当に親身に心配して頂いた。「ええんです。やります。浪人覚悟でやります。皆がやるって言ってるんです。ここで降りる訳にはいかない」。格好良い啖呵を切った。それでも先生達は親身になって心配してくれた。いろいろと裏で、僕たちの映画作りに協力して下さった。
7月、期末試験が終わって、皆が協力して書いてくれたシナリオを手直ししながら思った。これは、3本とも完成させなければならぬ。これだけ一生懸命書いてくれたシナリオ、一本たりともカットは出来ない。もう受験勉強どころではない(笑)。夏休み返上で、絵コンテ作りとロケハンである。映研の後輩を冷やかしながら、シナリオを読みながら、各シーンの絵コンテ作り。そして、その背景のイメージにあった、ロケ地探し。映研の後輩の自転車を借りて、2万5千分の1の地図を片手に、広く高校の周りを行ったり来たり。
シナリオを手直ししながら、絵コンテを描きながら、映研の部室で聴いたロックのアルバムが、イーグルスの『呪われた夜(One of These Nights)』(写真左)である。
僕はこのアルバムで、イーグルスを知った。アルバムを買う余裕など無い。FMのエアチェックをかき集めて、一枚のアルバムに仕上げた(笑)。1曲目の「One of These Nights」を聴く度に今でもワクワクする。ハードでソリッドな、加えて印象的なコーラス。これがウエストコースト・ロックの雄、イーグルスの音か〜、と感心した。続く2曲目の同じトーンの「Too Many Hands」もハードな演奏、印象的なコーラス。英国ロックとは違う「疾走感と爽快感」。
しかし、である。次の3曲目が、実に素晴らしい名曲なのだ。イーグルス紹介の類いには決して出てこない曲だが、僕はこの曲が、イーグルスらしい、イーグルスの傑作曲のひとつだと思っている。その曲名は「Hollywood Waltz」。これが本当に良い曲、良い演奏なのだ。前奏のスチールギターの音。間奏で出てくるマンドリンのフォーキーな響き。エンディングで聴かせるドン・ヘンリーのシンバルワーク。たった4分2秒の演奏なのだが、ウエストコースト・ロックの雰囲気をドップリと聴かせてくれる。
4曲目の「Journey of the Sorcerer」は意欲的なインスト・ナンバー。バンジョーの音色が印象深い。当時、これはイーグルスらしく無いとか、やり過ぎとか揶揄されたが、僕はそうは思わない。劇的な展開の演奏の中に、そこはかとなく漂うウエストコースト・ロックの香り。砂漠地帯の風景、大都市の風景、サンフランシスコ湾の青い海。そんなカリフォルニアの風景が思い浮かぶ。
そして、この『呪われた夜』のハイライトは、やはりLP時代のB面、「Lyin' Eyes」〜「Take It to the Limit」〜「Visions」の3曲。いずれも名曲名演。この3曲の中でどれが一番のお気に入りか。僕は、絶対に「Take It to the Limit」である。歌詞、曲共に大好き。特に、この青臭い歌詞が良い(笑)。今でも、こういう風に「青臭く」ありたい、と常々思っている(笑)。
この「Lyin' Eyes」〜「Take It to the Limit」〜「Visions」のメドレーの様に流れるハイライトが終わると、叙情的で落ち着いた「After the Thrill Is Gone」と「I Wish You Peace」が待っている。ほんとにしみじみとする良い曲である。
『ホテル・カリフォルニア』が最高傑作に挙げる70年代ロック者の方々が多いが、僕は絶対にこの『呪われた夜』である。このアルバムこそが、イーグルスの最高傑作に相応しい。
このアルバムを聴くと、今でも高校3年生の夏を思い出す。もう絶対に現役合格は無理やなあ、と思いながらも、なんとか、この日本昔ばなしの実写版を完成させるべく、本当に映画は出来るのかという辛いプレッシャーと戦いながら、良い映画にしなければと思いながら、シナリオに手を入れ、絵コンテを描き、一人でロケハンした夏。振り返ると、何かしんみりしてしまう、甘酸っぱい香りがする高校3年の夏。その高校3年生の夏の思い出は、このイーグルスの『呪われた夜』と共にある。
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こんばんは。 夏の思い出が名曲や名盤と共にあるというのはいいですねー。 僕も「呪われた夜」は忘れられない1曲であり名盤です。 そういえば、「思い出の夏」という名画もありましたね。
投稿: music70s | 2009年8月12日 (水曜日) 22時56分
いらっしゃい、 music70sさん。松和のマスターです。
そうですね。夏の思い出が名曲、名盤と共にあるって、実に幸せなことだ
と思っています。なぜか不思議と、思い出に残る季節や場面毎それぞれに
音楽があるんですよね。楽しい思い出、懐かしい思い出ばかりでは無く
悲しい思い出や悔しい思い出もあるんですが、出来る限り楽しい思い出、
懐かしい思い出に絞り込んで、それぞれの季節や場面を彩ってくれた音楽
を愛でています(笑)。
投稿: 松和のマスター | 2009年8月13日 (木曜日) 00時26分
マスター、ご無沙汰です。
私はこのころ大学、私もイーグルスは3rdからこのアルバムがピークだと思っています。
B・リードンとR・メイズナーがいた頃が最高だったと思います。T・シュミットじゃ後任の荷が重過ぎるし、メイズナーとは格が違いすぎる。
呪われた夜のB面は最高ですよね。ラストのB・リードンが別れを告げているかのような歌声に涙が出てきましたね。
投稿: N1号 | 2009年8月17日 (月曜日) 12時18分
いらっしゃい、N1号 さん。松和のマスターです。
「On The Border」も良いアルバムでしたね〜。B・リードンとR・マイズナーが
いないとね、と思ってしまいますね。
仰るとおり『One of These Night』のB面は最高です。冒頭の「いつわりの瞳」が
流れると、もう駄目。ラストの「 I Wish You Peace」まで、一気に聴いて
しまわないと満足できない(笑)。本当に、ラストの「 I Wish You Peace」は
しみじみします。
投稿: 松和のマスター | 2009年8月17日 (月曜日) 22時21分