「オモテ名盤・ウラ名盤」って
ジャズのアルバム作りって、収録する予定の曲数よりも多い曲数を収録して、その中から、良い演奏をチョイスしてアルバムにする、という手法が取られることが多い。よって、アルバムに採用された演奏曲は良いとして、日の目を見ない演奏曲もある、ということ。
しかし、そのセッションの演奏の水準が高いと、日の目を見ない演奏曲も、アルバムに収録された演奏曲と比べて、全く遜色のない、優れた出来のものであることが多い。そうすると、レーベルとして「これをお蔵入りにするのは惜しい」ということになり、別のアルバムとして、リリースされることがある。
例えば、ピアニスト Kenny Drew(ケニー・ドリュー)の『If You Could See Me Now』(写真左)。このアルバム、実はドリューの大名盤『Dark Beauty』(2009年5月23日のブログ参照・左をクリック)のアウト・テイク集なのだ。つまり、『Dark Beauty』のセッションの中で、『Dark Beauty』に収録された以外の「お蔵入り」になりそうだった演奏曲をアルバム化したもの。
収録曲は以下のとおり。
1. In Your Own Sweet Way
2. If You Could See Me Now
3. All Souls Here
4. I'm Old Fashioned
5. Free Flight [#]
6. Run Away [Take 3][#]
7. Summer Night [Take 1][#]
8. Stranger in Paradise
9. Prelude to a Kiss
10. This Is the Moment
11. Oleo
5曲目〜7曲目がLP時代未収録曲。実はこれが「邪魔」なのだ。特に、6曲目の「Run Away」は、とても邪魔。この曲が出てくると、本家本元の『Dark Beauty』と勘違いするというか、混同するので、実に邪魔である。5曲目「Free Flight」、7曲目「Summer Night」も、出来は決して良くない。LP時代に、2枚のアルバムからも漏れた演奏曲なので、CDになって、収録時間が増えたからと言って、このアウトテイクを収録することもなかっただろうに・・・。
でもって、この5〜7曲目はスキップして、LP時代の『If You Could See Me Now』にして鑑賞する。と、これが良いんですね〜。冒頭の「In Your Own Sweet Way」から、ドリューの黒光りする、そこはかとなくファンキーなピアノが実に良い。冒頭から弾きまくりである。続くスローなバラード「 If You Could See Me Now」も良い。実に優雅である。実に趣味がよいバラード演奏。
そして、3曲目の「All Souls Here」は意外と言えば意外。バップ系ピアニストのドリューが、絵に描いたような、ゴスペルチックでファンキー、アーシーでフォーキーな演奏をするとは思わなかった。いや〜、これが実に楽しそうで、実にリラックスした演奏なのだ。ドリューがヨーロッパに渡って、郷愁の念はあれど、ジャズを演奏する環境としては「幸せ」だったことが偲ばれる、実に楽しい、実にファンキーな演奏である。
俗っぽいテーマが難物で、なかなか決定的ジャズ演奏にお目にかかれない(お耳にかかれない?)「Stranger in Paradise」も大健闘。ラストがフェードアウトなのが惜しいが、なかなか硬派な「Stranger in Paradise」が聴ける。バップ系ピアニスト、テクニックと優雅さのバランスが取れたドリューの面目躍如的な演奏である。
良いアルバムです。オモテ名盤を『Dark Beauty』とするならば、この『If You Could See Me Now』は「ウラ名盤」。『Dark Beauty』は正統派ジャズ名盤なのは疑いもない事実ですが、実は、CDトレイに載る回数が多いのは『If You Could See Me Now』だったりする。
親しみのある選曲とリラックスした雰囲気という観点では、ウラ名盤の『If You Could See Me Now』の方に軍配が上がるのでは無いでしょうか。『Dark Beauty』と併せて、対で鑑賞することをお勧めします。
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