パットのグループ・サウンド
現代ジャズ・ギタリストの代表格である「パット・メセニー」。デビューアルバムの『Bright Size Life』で、パット・メセニーのギターの個性的な音とフレーズは、既に完成していた。
『Bright Size Life』では、エコーをたっぷりとかけ、アタッチメントを駆使して、現代のジャズ・ギターの代表的な音色を醸し出し、フォーキーで叙情的な音を完成させていたことが良く判る。フレーズの基本は、ジム・ホール。後に、デュオアルバムを出すほどの熱心なフォロワーである。
しかし、グループとしての「音」はまだ確立していなかった。印象的な音色で、瑞々しさを表現していたが、グループとしてのサウンドの方向性は未成熟であった。そして、このセカンド・アルバム『Watercolors』(写真左)である。このリーダー作で、パット・メセニー・グループとしてのサウンドの基本が確立された感がある。
フォーキーな、アメリカン・ルーツ・ミュージック的な音をグループサウンドのベースに据えて、実に叙情的で郷愁を感じる、力強さとセンチメンタリズムを併せ持った、後のパット・メセニー・グループ(PMG)のサウンドがこのセカンド・リーダー作で確立されている。
そのPMGサウンドの要は「キーボード」。このアルバムでは、効果的にエコーのかかった生ピアノの音が、情感たっぷりにパットのギターに絡む。このピアノの音色がPMGのサウンドを決定付けている。
この『Watercolors』で、そのPMGのグループ・サウンドの要となる「キーボード」を演奏するのが、PMGの盟友「Lyle Mays(ライル・メイズ)」。このセカンド・リーダー作で、運命の出会いを果たしている。PMGのサウンドの基本である、叙情的な郷愁部分を大部分、キーボードに委ねて、パットは、自在にギター・サウンドを操れるようになった。
そして、そのPMGサウンドの応じて、ベースのEberhard WeberとドラムのDanny Gottliebが、これまた柔軟性豊かな情感溢れるビートを変幻自在に供給する。が、ちょっとベースが弱いかなあ。前作のベースが、ジャコ・パストリアスで、それはもう凄いベースだったからなあ。パットにとってはジャコは最高のベーシストだったと思うが、ジャコの抱える様々な問題が障壁になって、レギュラー・メンバーにはならなかった。実に惜しい。
フォーク、カントリー、ポップの要素をジャズとブレンドしつつ「叙情的・郷愁・変幻自在・力感とセンチメンタリズム」な独特の個性的な音を供給する。この辺りがPMGのサウンドの基本なんだが、このグループ・サウンドの基本が、この『Watercolors』に溢れている。
特に、3曲目「Oasis」のパットのギターとメイズのキーボードのデュオは、PMGのサウンドの基本を如実に伝えてくれる。懐かしい郷愁を感じ、抜けるような乾いた青空を感じる。なんだか聴き進めるうちに、センチメンタルな気持ちになってしまうような、心洗われる演奏です。
ジャズ者初心者の頃、この『Watercolors』を聴いて、ジャズの演奏に、こんなに叙情的で、表現力豊かな側面があるってことを初めて知って、心から感激したことを昨日の事のように思い出します。ジャズの懐の深さを体験できる、実に聴き応えのあるアルバムです。
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