硬派な「Besame Mucho」である
昨日の、バーチャル音楽喫茶『松和』の「ジャズの小径」の更新を受けて、今日もウエス・モンゴメリー(Wes Montgomery)ネタを。
ウエスは、ジャズ・ギターのバーチュオーソの中でも、NO.1だと思っている。早くに亡くなってしまった(1968年)ので、ジャズの歴史の中の「伝説の人」となってしまって、その凄さ、その真価がなかなか実感されなくなってしまっているが、録音されたアルバムはまずまずの数が残っているので、それらの遺作を紐解くと、ウエスの凄さが再認識できる。
そのウエスの凄さが再認識できるアルバムの一つがこれ、『Boss Guitar』(写真左)。1963年4月の録音。パーソネルは、Mel Rhyne (org), Wes Montgomery (g), Jimmy Cobb (ds)。オルガンとギターは相性が抜群。その内容に期待高まるメンバー構成。
でも、冒頭の収録曲「Besame Mucho」の2連発を見ると、ちょっと「引く」。「Besame Mucho」という曲、とにかく、ベダベダなムード音楽っぽい曲で、とにかくコーニーな曲なのだ。これを、ベタベタなファンキー・ジャズでやると、とにかく俗っぽくなって、趣味の悪いムード・ジャズになる危険性の高い、とにかく「危ない曲」。これが、ギター+オルガンの、見るからに「ファンキー」な構成で演奏するのだ。怖じ気づいてしまって、触手が伸びない。
でも、勇気を出して聴いてみて下さい(笑)。ウエスが、実に硬派に、太いギターで、疾走感豊かに、この「Besame Mucho」を弾き進めていく。アドリブの部分なんか、ブワーッと押し寄せるように、台風のような疾走感。凄い歌心とテクニックです。
とにかく、こんな硬派な「Besame Mucho」は聴いたことが無い。「Besame Mucho」のようなコーニーな曲を、ウエスのギターがねじ伏せて、ジャズとしてアーティスティックに聴かせるところが、このアルバムの聴き所。本テイクと別テイクが2曲続いても、これは全く気にならない。凄い「Besame Mucho」です。
続く「Dearly Beloved」などは、もうフュージョン・ジャズで、1963年の録音とは思えない。ウエスのギターの爽快感が素晴らしい。これは、もう4ビート・ジャズでは無い。上質のフュージョン。1963年にして、10年後にやって来る「フュージョン時代」を先取りしている演奏には、もう痺れるばかり。
ジャズ・スタンダードの「Days of Wine and Roses」も情感が溢れまくっていて実に良い。「Canadian Sunset」のウエスの歌心とオクターブ奏法には惚れ惚れする。Jimmy Cobbの、ちょっとラフなドラミングが、ウエスのギターの「硬派な」雰囲気を、やんわりと緩和させ、Mel Rhyneのオルガンは大健闘(Mel Rhyneというオルガニストを僕は知らなかった)。Mel Rhyneの一世一代の名演かも。
収録曲を見渡すと、ちょっと「引いて」、ちょっと怖じ気づいて、なかなか触手の伸びない難物なアルバムですが、手に入れて聴いてみると、これは凄いと思う。やっぱり、アルバムは事前の知識や情報は参考程度に留めるべきで、やはり実際聴いてみないと駄目ですね。この『Boss Guitar』を聴いて、若干反省である。
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