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2009年5月16日 (土曜日)

とても暖かい「バド・パウエル」

バド・パウエルは、ジャズ・ピアノ・トリオの祖。全盛期のアルバムは、どれも「触れば切れる」感じの、ストイックで、冷徹なまでの「瞬間芸的な」緊張感、そして、誰も寄せ付けないほどの超絶技巧なテクニック。それでいて、そこはかとなく漂う歌心。

おそらく、全盛期のバド・パウエルを愛でる方々は、当時のバド・パウエルの演奏に、この「そこはかとなく漂う歌心」に、ほのかに暖かい「人間味」を感じて、おそらく「素晴らしい」と感じておられるのではないかと思う。

それほど、全盛期のバド・パウエルの演奏は、どれも「触れば切れる」感じの、ストイックで、冷徹なまでの「瞬間芸的な」緊張感、そして、誰も寄せ付けないほどの超絶技巧なテクニックで、とても、音楽を楽しむという、娯楽としての音楽からは大きく外れた、優れた芸術家のエゴイズムが感じられる演奏なのだ。冗談めいていうと、この全盛期のバド・パウエルが良いと言い切れる方は、きっと「どM」ではないかと勘ぐってしまう(笑)。

それでも、そのどれも「触れば切れる」感じの、ストイックで、冷徹なまでの「瞬間芸的な」緊張感、そして、誰も寄せ付けないほどの超絶技巧なテクニックの中に、ほのかで暖かい「人間味」を感じることができるからこそ、バド・パウエルは素晴らしい。

絶頂期を過ぎて、通説通りに振り返ると、統合失調症に悩まされ、その治療で電気ショック療法を受け、また警官に頭部に暴行を受けた為に、指が以前の様に上手く動かなくなる。天才音楽家としては、悲惨極まりない状況に追い込まれていく。

The_scene_changes

しかし、この『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5) 』(写真左)を聴けば、確かに、天才音楽家として、悲惨極まりない状況に陥ったにも関わらず、彼のそれまでの実績とは違う、人間味のある音楽家としての「暖かさ」を確実に感じることができる。僕は、この彼の晩年の諸アルバムがあるからこそ、バド・パウエルという、不世出の天才音楽家の存在意義が確固たるものになっている、と思う。

絶頂期だけでは人間味が無い。ジャズは人間が演奏する音楽である。そのジャズの中で、「天才」ということだけで処理できない「人生の暗転」。しかし、その「人生の暗転」の中でも、バド・パウエルは演奏を続け、絶頂期には見られなかった「人間味溢れる」演奏を繰り広げてみせる。

その最右翼の演奏を記録したのが、ブルーノート4009番『The Scene Changes』であると思う。冒頭の「Cleopatra's Dream(邦題;クレオパトラの夢)」だけが突出して持てはやされる傾向にあるが、他の曲にしっかりと耳を傾けてみないと、このアルバムの真価は判らない。というか、絶頂期に無い「暖かさ」を感じるには、絶頂期の演奏を十分理解していないと、この『The Scene Changes』の真価は理解できないと思う。

その一例が、5曲目の「Borderick」のロマンティックな優しいフレーズに現れている。ポジティブなメジャー調の明るい旋律。ところどころ指がもつれる。全盛期の、他を寄せ付けない超絶技巧な世界は、ここには無い。でも、その演奏には、そこはかとなく「ハッピー」な雰囲気が漂う。但し、心から湧き出るハッピーさでは無いのが残念なんだけど・・・。

冒頭の「Cleopatra's Dream」だってそうだ。マイナー調のシビアな演奏風の雰囲気の中に、そこはかとなく漂うロマンティシズム。そのロマンティシズムが、ほのかに匂うからこそ、この「Cleopatra's Dream」は素晴らしい。この「Cleopatra's Dream」を、バド・パウエルの全盛期の演奏で聴いたとしたら、冷徹極まりない、妖しい切れ味漂う、玄人好みの演奏になったんではないか。少なくとも、これだけ、ジャズ初心者の方々にも受け入れられる、ポピュラーな演奏にはならなかったと僕は思う。

この『The Scene Changes』は、確かに、天才音楽家として、悲惨極まりない状況に陥ったにも関わらず、バド・パウエルのそれまでの実績とは違う、人間味のある音楽家としての「暖かさ」を確実に感じることができる、素晴らしいアルバムである。

これもバド・パウエル。絶頂期の超絶技巧、切れ味鋭い、ストイックな演奏もバド・パウエル。
 
 
 
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