時にはこんな「異色作」はいかが?
今日は初夏らしい一日になった。日中は半袖で十分。窓から吹き込む風も、カラッと乾いていて心地良い。日差しは、もう夏らしい日差し。こんなに気持ちの良い気候って、湿度の高い日本では、ありそうでなかなか無い。良い一日だった。
CD棚を整理していて、こんなアルバムに気が付いた。Philly Joe Jones『Blues for Dracula』(写真左)。ジャケット写真を見て頂きたい。そう、ドラムを叩くドラキュラ(爆笑)。このドラキュラに扮するのは、当然、リーダーのフィリー・ジョー・ジョーンズ。いやいや、このジャケットだけで、十分「異色作」である。
よくよく調べてみると、当時、フィリー・ジョーがお気に入りの、ドラキュラ映画の主演者である Bela Lugosi(ベラ・ルゴシ)への敬愛をジャケットで表しているとのこと。ふ〜ん、そうなのか。フィリー・ジョーって、ドラキュラが好きだったのか。でも、ジャズとは直接関係無いよな(笑)。
1曲目がその表題曲の「Blues for Dracula」。冒頭、ちょいと冗長な長い語りが入る。なんだこれ、と訝しく思う。これって、調べてみると、ベラ・ルゴシの物真似らしい。どうも当時、フィリー・ジョーは、盛んにライブで、このベラ・ルゴシの物真似を演っていたらしく、これがまた大受けに受けていたらしい。
当時のジャズ・ライブって、ジャズ演奏とお笑い芸を抱き合わせにした舞台構成が多かったらしい。つまり、ジャズ演奏の合間合間に、余興として「お笑い芸」などを披露する、今日でいう、いわゆるバラエティー系の構成をしていたとのこと。日本では、ジャズといえば「芸術」という色合いが濃い。でも、1950年代、本場米国では「大衆芸」「娯楽音楽」の色合いが濃かった。
「私はビバップ・ヴァンパイヤじゃ〜」と自己紹介から始まる。で、かなり訛りのある英語で、なんだかかんだか。口上のラストに、コウモリが「だんな、あの不思議な調べは?」なんて問うと、ドラキュラ伯爵が「夜の子供達が美しき調べを奏でているのだ〜」と楽団を紹介、フィリー・ジョーのドラムの強烈なビートから、ハード・バップな演奏が始まる。ふふん、なかなか手の込んだ構成やなあ。
このアルバムが録音されたのが、1958年9月。そんなドラキュラ映画が流行っていて、ベラ・ルゴシなる人物が主役で、これまた物真似すると受ける位の人気者だったなんて、今では全く判らないよな。だから、知識として、そんな時代背景を理解していないと、この冒頭の1曲目「Blues for Dracula」だけで、「際物」と扱われること必至である。まあ、2曲目の「Trick Street」からは、普通のハード・バップな演奏が繰り広げられるので、ご安心を(笑)。
改めて、ちゃんとご紹介すると、この『Blues for Dracula』は、フィリー・ジョーの初リーダー作。パーソネルは、Nat Adderley (corr), Julian Priester (tb), Johnny Griffin (ts), Tommy Flanagan (p), Jimmy Garriosn (b), Philly Joe Jones (ds)。なかなか錚々たるメンバーが揃っている。このメンバーで繰り広げるブロウイング・セッションという面持ちですな。
とりわけ、ビックリするような演奏が繰り広げられている訳では無いのですが、平均的なハード・バップというか、標準的なハード・バップというか、安心して、あまりこだわることなく、あっけらかんと聴くことのできる、ハード・バップな演奏とでも表現したら良いでしょうか、飽きることなく、時々引っ張り出して聴くことの出来る演奏です。フィリー・ジョーのドラミングも、彼のドラミングの特徴が良く分かるもので、フィリー・ジョー入門としても良いのでは、と思います。
時には、こんな「異色作」も面白い。時代背景などをしっかり知識として押さえることにより、「際物」と誤解していた「異色作」も、一種味わいのあるアルバムに早変わり。そんな大事なことを教えてくれた、僕にとっては、なかなかの「教育的効果のある」アルバムでした。
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