上手の手から水が漏れる
久しぶりにロックのお話しを。最近、ジェフ・ベックとエリック・クラプトンが来日して、なかなかのライブを披露しているらしい。見に行きたいな〜、と思う反面、めんどくさいな〜と思ったり(歳ですかね)、なかなか複雑な心境の「松和のマスター」です(笑)。
最近、そのジェフ・ベックの正式リリースのアルバムの蒐集がコンプリートしたので、まとめて、ちょくちょく聴き直している。90年代以降のアルバムについては、ジェフのギター職人ぶりに、もう「感動」に次ぐ「感動」で、唯一無二の、時代を超えたエレキ・ギターに痺れっぱなしである。
そんな中、失敗作の誉れ高い、1985年リリースの『Flush(フラッシュ)』(写真左)を聴く。名作『There and back』から5年を経て。やっと新作がでるぞ~とファンの期待を一身に背負ったリリースだった。しかし、その内容は「???」。あ〜、ジェフも終わったな〜、と思ったのを覚えている。それから、24年(約四半世紀!)を経過して、実に久しぶりに、この『フラッシュ』を聴き込んだ。
確かに、冒頭の「Ambitious」を聴くと「これは違うな〜、ベックとは違うな〜」と思います。サウンドの雰囲気が全然ベックらしくない。今の耳で聴くと、思いっきり古さを感じる、当時流行のリズムパターン。ギンギンのギターが耳につく。当時もそう感じましたが、24年経って、改めて今の耳で聴いても、抑揚のない通俗的なサウンドです。まあ、ベックのギターはギンギンに加工された音色の中にも、ベックらしさが光る「アドリブ瞬間芸」が感じられるのが救いですが。
しかし、とにもかくにも、ボーカルが弱すぎる。ロッドの参加部分は別格として、ジミー・ホールなる者が歌っている、若しくはベック自らが歌っているものは、どう聴いても良いとは思えない。こんな中途半端なボーカルを入れるんなら、入れない方が「まし」だと思う。過去、BB&Aなどで、ジェフはボーカルの扱いで失敗しているのになあ。同じ失敗を2度繰り返されると、かなり辛い。
いやはや、アルバム全体を覆う雰囲気は、80年代の「音楽として不毛な時代」の、デジタル・打ち込み・ビジュアル優先、という「三悪」に負けて、迎合してしまった、70年代ロックの代表的ミュージシャンの「戸惑い」ですね。90年代に入る頃には「我が道を行けば良い」ということに皆気づくのですが、この80年代は、迷いに迷っている。ジェフも人の子なんですね〜。
でも、改めて聴き直してみると、良いトラックもある。3曲目「Escape」、4曲目「People Get Ready」、9曲目「You Know,We Know」などは優れた内容だと思うので、このアルバムの全てが悪い訳ではないようです。特に、ロッドとの再会セッションで話題を振りまいた「People Get Ready」は、今聴いても良いですね〜。とにかく、牧歌的なイントロで「ジーン」として和んでしまいます。こういったカントリー&フォーキーな楽曲に、からきし弱いので、今聴いても、なんとなく心が「ジーン」とします(笑)。
アルバムのジャケットも「らしくない」、変だ、ジェフではない、と思います。ジェフ自身も、「あれは失敗だった」と、このアルバムを酷評しており、確かにジェフの正式リリースのアルバムの中では、一番出来が悪い、といっても良いでしょう。
この『フラッシュ』を聴くと、いつも頭に浮かぶ諺が「上手の手から水が漏れる」。ジェフにこんなアルバムを作らせてしまう。それだけ、80年代のロック・シーンは不毛だった、ということが言えるのかもしれません。
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