チェットの異色のライブ盤です
70年代はフュージョンの時代。70年代初頭、ジャズとロックの融合がメインの「クロスオーバー」というジャンルから端を発し、ジャズを基調にロックやファンク、R&B、電子音楽、ワールドミュージックなどを融合(フューズ)させた音楽のジャンルとして、「フュージョン」というジャンルが定着、一世を風靡する。特に、70年代は電気楽器をベースとしたロック、R&Bとの融合がメインだった。
そんなフュージョンの時代、50年代のハードバップ時代からのベテランミュージシャンは、どうしていたのか。意外と根強く、ガッチリと逆風の時代を生きていた様子が伺えるアルバムが多々あって、実に頼もしい限りである。そんな、ベテランミュージシャンを中心に、70年代ジャズの様子が垣間見えるアルバムの一枚が、Gerry Mulligan & Chet Bakerの『Carnegie Hall Concert』(写真左)。
マリガンとベイカーはもう晩年期に差し掛かっていたとは言え、なかなか小気味よい内容のある演奏を聴かせてくれる。でも、このライブ・アルバムの興味は、当時、まだ名前の売れていなかったギターのジョン・スコフィールド、ピアノ&キーボードのボブ・ジェームス、ドラムのハービー・メイソンの演奏。
特に、フュージョンの人気者ボブ・ジェームス(写真右)のアコースティック・ピアノとフェンダー・ローズを駆使した「純ジャズ」的な演奏は実に興味深い。ボブ・ジェームスのピアノは、直前の時代はフリー・ジャズをしていたにも関わらず、ビル・エバンスの流れを汲むリリカルな響きと、まるで、ハービー・ハンコックの様な新主流派的な節回しには「目から鱗」です。ボブが、こんなにアコースティック・ピアノを「純ジャズ」的に弾けるとは思わなかった。
しかも、そのアコースティック・ピアノの上をいくのが、ボブのフェンダー・ローズ。電気ピアノ系は、その独特な響きから、電気ピアノならではの弾き方をしないと、その電気ピアノ的な特徴が活きないのですが、このライブ・アルバムでのボブ・ジェームスのフェンダー・ローズの扱いは素晴らしい。フェンダー・ローズを純ジャズ的に弾きこなす名手としては、チック・コリアが一番に思い浮かぶのですが、このチックと比較しても遜色無い、なかなかのフェンダー・ローズを聴かせてくれます。
加えて、思わずニヤリとしてしまうのが、ジョン・スコフィールドのギター。この時代で、早くも彼独特の「アウト・フレーズ」を連発していて、一聴すると「誰や〜、この歪んだフレーズを連発するギタリストは〜」と思ってしまいます。パーソネルを確認すると、ジョン・スコフィールドと判り、至極納得します。
ドラムのハービー・メイソンも、トニー・ウイリアムス顔負けのスーパー・ドラミングを聴かせてくれる。デイヴ・サミュエルズの爽やかなヴァイブ・サウンドも良い。唯一、ロン・カーターのベースは、70年代特有の「ボヨン、ブヨン」とした増幅音豊かなベースで、ちょっと閉口するけど(笑)。でも、いつもよりピッチはあっているみたいなので、まあ「ええか」。
70年代、フュージョンの時代の中で、異色の「純ジャズ」ライブ・アルバムだと思います。LP時代では「2枚組」で出ていたものが、CDでは1枚に集約され、お値段も、amazonで690円(本日現在)と、相当にお得感があります。なかなか良い内容なので、一聴をお勧めしたい、異色のライブ・アルバムです。
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