フュージョン界の千手観音 『Total Eclipse』
70年代のフュージョン全盛時代をリアルタイムに生きた僕にとっては、フュージョンのアルバムは手放すことの出来ない、思い入れの強いアルバムが多々ある。
初めて聴いたのは『Crosswinds』というアルバムだった。『Crosswinds』は組曲 "A Sound Portrait"(風の印象)と3曲の独立した曲で構成されています。特に前半の組曲組曲 "A Sound Portrait"は素晴らしい出来でした。自然をテーマにした、当時クロスオーバーと呼ばれた演奏は、それはそれは新しく、ロックで染まった僕を一気にフュージョンの世界に誘ってくれました。
このアルバムの主は、Billy Cobham(ビリー・コブハム)。マハヴィシュヌ等でも活躍したドラマー、ビリーコブハムの1974年発表のソロアルバムです。
ビリー・コブハムは、その手数の多い、表情豊かなドラミングから、僕は「フュージョン界の千手観音」と呼んでいます。ほんと、彼のドラミングを聴くと、一体手が何本あって、足が何本あるのか、と思ってしまうほど、手数が多く、表情豊かなドラミングです。
で、大学に入って、アルバム・ジャケットに惹かれて聴いた、ビリー・コブハムのアルバムが、Billy Cobham 『Total Eclipse』(写真左)。Total Eclipse=皆既日食。これも、また自然現象というか天文現象をテーマにした組曲を冒頭に据えた、実に魅力的な内容のアルバムです。『Crosswinds』と同じく、1974年のリリース。
ゲストメンバーが豪華で、Michael Brecker(ts), Randy Brecker(tp)の「Brecker兄弟」に加えて、ギターには、John Abercrombieが参加しています。また、1曲だけですがCornell Dupree(g) の名前も見えます。これだけのメンバーが集っての演奏です。普通のクロスオーバーであるはずが無い(笑)。
John Abercrombieのギターが捻れに捻れる。Randy Breckerのペットはワウワウし、Michael Breckerのテナーが吠えまくる。忘れてはいけないのが、Milcho Levievのキーボード。実に表情豊かなキーボードに、思わず耳を奪われます。
面白いのは、「Brecker兄弟」をフューチャーした演奏は、ジャズ・ロックというよりブラス・ロックしていて、既に、後の「Brecker Brothers」を彷彿とさせます。自然をテーマにした曲に交えてブラス・ロック的な曲をフューチャーする。リーダーのBilly Cobhamの節奏の無さにはビックリします(笑)。
でも、どちらの雰囲気も全く遜色なく、自然のテーマとブラス・ロックが混じっても、この時代のBilly Cobhamバンドとしての音にしっかりとまとまっており、個々のメンバーの演奏力、表現力はずば抜けたものがあったんやなあ、と感心することしきり。
Billy Cobhamのリーダー・アルバムの「おきまり」である、Billy Cobhamの延々と長時間続くドラム・ソロのみの曲も収録されていますが、彼の「千手観音」ドラミングは、流石に飽きが来ない。特に、ちょっと音の良い再生装置で聴くと、本当に「千手観音」的な、その手数の多い、表情豊かなドラミングが堪能できます。ドラム・ソロをこれだけ長々と聴かせることのできるジャズ・ドラマーはなかなかいません。
70年代フュージョンとリアルタイムで付き合っていた頃、『Crosswinds』と併せて、この『Total Eclipse』は良く聴きましたねえ。今でも時々引っ張り出しては聴くんですが、やはり素晴らしい内容ですね。70年代ジャズ・ロック、70年代フュージョンの名盤の一枚だと思います。
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