アナログ・フュージョンの優秀盤
デオダートと言えば、70年代クロスオーバー〜フュージョンを代表するミュージシャン&コンポーザー&アレンジャーである。
70年代初頭、フュージョンが、まだクロスオーバーと呼ばれている時代、CTIレーベルから、『ツァラトゥストラはかく語りき』や『ラプソディー・イン・ブルー』という、クラシックとジャズの融合、当時は「クロスオーバー」と呼ばれたジャンルで一世を風靡した。
しかし、デオダートの真価は「クラシックとジャズの融合」という、実にコマーシャルな側面ではない。彼の出身はブラジル。確かに『ツァラトゥストラはかく語りき』や『ラプソディー・イン・ブルー』は優れたアルバムではあるが、彼の本当の真価はそれではない。そのブラジル出身の感性を活かした「ラテン・フュージョン」的なフレイバーが、彼の真価であり、彼の特質である。
その彼のブラジル出身の感性を活かした「ラテン・フュージョン」的なフレイバーが、花と咲いたのは、デオダートことエウミール・デオダートが1978年に残したワーナー移籍後初となるアルバム『Love Island』(写真左)からである。
当時のワーナーが抱える売れっ子プロデューサー、トミー・リピューマとの共同プロデュース。アナログちっくで、クロスオーバー的な音作りで、1978年というフュージョン全盛の当時にとっては、一聴すると「時代遅れ」と思わせるような内容だが、どうしてどうして、腰を据えて聴くと、今の耳にも新鮮な感動を与えてくれる、凡百なフュージョンとは一線を画した、実に優れた内容のアルバムである。
収録されたどの曲にも、演奏としては、デオダートの手癖が満載だし、アレンジをとってみては、デオダートの音の重ね方が満載だし、曲想としては、デオダートならではの「ラテン・フレイバー」が満載で、聴いていて、ワクワクのしっぱなし。
音の特徴としては、このアルバムは、1978年のリリースなんだが、まだまだ「アナログ」の雰囲気がバリバリで、1980年代のデジタル臭は全くなく、デジタル編集の気安さは微塵も無い。人間が、人間の手で、超絶技巧、卓越したテクニック満載ではあるが、演奏全体の雰囲気として、実に人間っぽい、ヒューマニズム溢れるフュージョン演奏がここにある。
特にラストの「A列車で行こう」は聴けば聴くほど、名演の類に感動して、なんだか嬉しくやるなら、感動して、目頭が熱くなるやら。こんな緩やかで余裕があって優しい、それでいてテクニック優秀で、適度なテンションが心地良い「A列車で行こう」があるだろうか。しかも、アナログっぽさが色濃く、70年代のクロスオーバー〜フュージョンを、リアルタイムで聴いてきた僕にとっては、こんな嬉しくなる演奏は無い。
デオダートの弾くフェンダー・ローズは、実にデオダートっぽくて、とても良い。デオダートの弾くフェンダーローズには単なるテクニックを凌駕した、デオダートの感性を感じさせる、デオダートならではの音作りに魅せられる。
★1978年のリリース。当時はフュージョン全盛時代。でも、このデオダートの音作りは、クロスオーバー時代の音作りを強く感じさせる。でも、古さは感じない。今の耳にも十分アピールする、デオダートならではの、ある種不思議なアルバムである。
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