チェットの隠れた名盤を発見
チェット・ベイカーについては、あまり良い印象が無かった。チェット・ベイカーとは、ウエストコースト・ジャズの代表的トランペッターの一人。1929年生まれ。1988年5月、オランダはアムステルダムのホテルの窓から転落して死亡。とにかく破天荒な、筋金入りの「ジャンキー」。麻薬漬けのおっさんである。
なんせ、かのマイルス・デイヴィスをも凌ぐ人気を誇っていながら、1950年代後半からドラッグ漬けになり、まともな音楽活動ができなくなる。しかも、1970年にはドラッグが原因の喧嘩に巻込まれて、トランペッターの命というべき歯を折られてしまい、演奏活動の休業を余儀なくされる。 ここまでくると、どう考えても、ジャズメンというよりかは、単なる「ジャンキー」である。
しかし、 1973年にはディジー・ガレスピーの尽力により復活、1975年辺りから活動拠点を主にヨーロッパに移して活動を続けた。それでも、麻薬は止めない。過度な摂取を控えただけで、決して、チェットは麻薬を止めない。筋金入りの「ジャンキー」である(笑)。
それでも、1974年CTIレーベルからリリースされた『She Was Too Good to Me(邦題:枯葉)』(写真右)は良いアルバムだった。僕がチェット・ベイカーと言われて、「いの一番」に推薦するアルバムが、この『She Was Too Good to Me』である。一見何気ないイージーリスニング風のチェットのトランペットは、哀愁を湛えつつ、柔らかな優しいトーンで、聴き手に語りかける。これが良いんだよな。「これなら女にモテて仕方がないだろう」と納得してしまう(笑)。
そんなチェットの『She Was Too Good to Me(邦題:枯葉)』を凌駕するアルバムを、ダウンロード・サイトで見つけた。その名も『Two a Day』(写真左)。フランスは「Le Chateau」でのライブ。1978年12月29日の録音である。ちなみに、パーソネルは、Chet Baker (tp), Phil Markowitz (p), Jean-Louis Rassinfosse (b), Jeff Brillinger (ds)。チェット・ベイカー以外は知らないアーティストばかり。
でも、このアルバムが実に良い雰囲気を醸し出しているんですよね。いきなり、ドラムのドカドカという連打と共にチェット・ベイカーの熱いベットが聴ける。熱いとは言っても、チェットのトランペットは、哀愁を湛えつつ、柔らかな優しいトーンが特徴なので、「静かな熱さ」とでも言ったら良いのだろうか。心地良いトーンのトランペットが、気持ちの良いインプロビゼーションを繰り広げる。
続く「Blue Room」は一転してゆったりとしたテンポになり、チェット・ベイカーの面目躍如的トランペットが、朗々と鳴り響く。紡ぎ上げるかのようなチェットのペットが実に優しい。暖かな春の日差しが降り注ぐような、暖かな優しいトーンのトランペットが実に良い。
この冒頭の2曲で、このアルバムは「とても良い出来」だということが理解できる。以下の曲もチェットのペットは絶好調。これだけ吹きまくる(チェットにとってだけど)チェット・ベイカーって、あまり他のアルバムでは体験できない。このアルバムには、トランペッターとしてのチェット・ベイカーが、ドッカリと存在している。
チェットの十八番であるヴォーカルは「This is Always」のみ。面白いことに、チェットの柔らなボーカルが聴こえてくると、ガラッと雰囲気が変わる。不思議なトランペッターである。マーコウィツの美しいピアノが続き、それからチェットのスキャットが始まる。このスキャットが、これまた良い。
でも、チェットの十八番のボーカル・チューンが、この「This is Always」だけというのが、純ジャズとしての、トランペッターとしてのチェットをフューチャーしていて、このアルバムは純粋に「純ジャズ」の名盤としての水準を十分に確保していると言える。
チェット・ベイカーの名盤アルバム紹介には、今まで顔を出しているを見たことが無い、マイナーなアルバムですが、この『Two a Day』は良いです。チェットの1970年代の活動の中でも白眉の出来でしょう。
従来からの、ジャズ評論家中心の「代表的アルバム」紹介が全てでは無い、万能では無い、ということを身をもって教えてくれる、チェットの隠れ名盤。ジャズのアルバム・コレクションをしていると、時に「隠れ名盤」という類のアルバムに出会って、「ハッ」とすることがある。長年、趣味として続けているジャズ鑑賞の「至福の時」である。
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