Know What I Mean?
日本では、ビル・エヴァンスと言えば「ピアノ・トリオ」でないと許さない、的な雰囲気があるが、何も、ビル・エヴァンスというピアニストは、トリオ編成の時が一番素晴らしい、というような「フォーマット限定」のピアニストではない。
逆にフロントに管楽器を持ってくると、管楽器が旋律を浮きだたせ、加えて、エヴァンスの優れたバッキングが管楽器を引き立たせる、という相乗効果で、聴き応えのあるアルバムが生まれ出るケースが幾つかある(もともと、エヴァンスは、管楽器をフロントにしたカルテット以上の構成での録音が、トリオほど多くない)。
管楽器と組むことで、聴き応えのあるアルバムとなった一枚が『Know What I Mean?』(写真左)。フロントに、アルトサックスのキャノンボール・アダレイを立てたカルテット構成。パーソネルは、Cannonball Adderley (as) Bill Evans (p) Percy Heath (b) Connie Kay (d)。1961年の1月〜3月の間、3回のセッションを経て作成されたアルバムである。
タイトルの「Know What I Mean?」は、和訳すると「俺の言ってること、判るかい?」。当時、キャノンボール・アダレイの口癖。この口癖をタイトルに、エヴァンスはオリジナルを書いています(アルバムのラストに収録されていますね)。
さて、このアルバムの内容は、冒頭の有名曲「Waltz For Debby」の出だし3分で保証されたようなもの。リリカルで叙情的なエヴァンスのピアノの前奏から、主題をキャノンボールのアルトサックスが可愛く軽やかに吹く。
「Waltz For Debby」の美しいテーマの旋律が、アルト・サックスによって、クッキリ浮かび上がってきて、優しく可愛らしい中に、力強さが漲る、ピアノ・トリオの時とはまた違った「Waltz For Debby」が聴ける。躍動感溢れる「Waltz For Debby」。良い感じである。
リリカルで叙情的なエヴァンスのピアノとファンキーで陽気なキャノンボールのアルトサックスとは水と油で合わない、とする向きもあるが、そうとは思わない。エヴァンスのバッキングの技術、能力はそんな並のものではない。ファンキーで陽気なキャノンボールのアルト・サックスを上手く活かす、それでいて、自分の主張はしっかりと通す、という、非常に優れたバッキングを提供している。
キャノンボールも、このアルバムでは、圧倒的にファンキーで明るく陽気なアルトは封印し、エヴァンスのバッキングに上手く乗るような、柔らかく優しい、ちょっと可愛らしい、明るくはあるが抑制のとれたアルト・サックスを聴かせる。このアルバムのキャノンボールのアルト・サックスを聴くと、キャノンボールの演奏家としての能力の高さが理解できる。
2曲目の「Goodbye」以降、「Who Cares?」「Venice」「Toy」「Elsa」「Nancy (With the Laughing Face)」、ラストの「Know What I Mean?」まで、ポジティブで明るい、それでいて抑制の効いた、リリカルな演奏が繰り広げられる。どの曲の演奏も優秀。曲によって、バラツキが無いのはさすが。エヴァンスとキャノンボールのコラボの妙が堪能できる優れた演奏ばかりです。
このアルバムは、聴く人によって評価がコロコロ変わる、不思議なアルバムですが、僕は好きです。ジャズ初心者向けに格好のアルバムの一枚だと思います。
ちなみに、2曲目の「Goodbye」は、夜、寝る前によく聴きます。僕にとって「ナイト・キャップ」的な、お気に入り曲のひとつです。ユッタリしみじみして、心が洗われるような雰囲気に包まれる、実に叙情的な演奏で、その日の寝付きが確実に良くなります(笑)。
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はじめまして。ジャズピアノを嗜んでいる者です。このアルバムが好きすぎて、ここ何ヶ月はこれしか聞いてないほどです。こんなカルテットを実現させたいと想うひびです。マスターの記事は知識豊富で勉強になります。そして何よりもマスターが、このアルバムを好きでいらっしゃることが嬉しかったです。
投稿: KS | 2020年6月 5日 (金曜日) 12時20分