ジャズ・オルガンの「ベース」
70年代のプログレの世界やジャズの世界での、オルガンの音が好きである。オルガンの音って、ゴスペル風の雰囲気が色濃く漂い、アメリカン・ルーツ・ミュージックの大好きな僕にとっては、実に心地良い音色である。
ピアノ・トリオというと、バド・パウエル以降、ポピュラーな編成は「ピアノ+ドラム+ベース」。ところが、オルガン・トリオは「オルガン+ドラム+ギター」が定番。ジャズ初心者の頃、「ベースはどこへいった」と思っていたのだが、オルガン奏者はベースも自分で演奏するというのを知って、ビックリした。
恐らく、エレクトーン演奏の影響が強いと思われるのだが、このジャズ・オルガンでの「ベースの部分の演奏」を足鍵盤で弾いていると思っている人が多い。しかしながら、これは大いなる誤解である。僕もジャズ初心者の頃、そう思っていた。よくもまあ、これだけグルーブ感溢れるベース音を足鍵盤で出すもんやなあ、と感心していたが、これが違う。
ジャズ・オルガンではベースは「左手で演奏する」。左手でベースラインを弾くのに合わせて、足鍵盤をスタカートで弾くことによって、アクセントを付ける。そうやって、ウッドベースのようなアタックのついたサウンドとスイング感を出すのが、ジャズオルガンの基本奏法なのだそうだ。いや〜、勉強になりますな〜。
さて、ほとんどのジャズ・オルガン奏者がその奏法を踏襲しているが、中には、そうでないオルガン奏者もいる。シャーリー・スコットがそう。シャーリー・スコットのオルガンは「左手でベースラインを弾かない」。しかも、あまり音を重ねない、単音のインプロビゼーションが多く、他のジャズ・オルガン奏者に比べると実にシンプルな印象です。
このシンプルさが実に個性的で、あっさりとしたファンキー・ジャズとでも言うのでしょうか、不思議な感じのジャズ・オルガンです。ベースがしっかりと入っていますので、「オルガン+ドラム+ベース」という、ジャズ・オルガン・トリオとしては異色の編成で、ちょっと風変わりなオルガン・トリオを体感できます。
彼女のオススメは『On A Clear Day』(写真左)。Shirley Scott (org) Ron Carter (b) Jimmy Cobb (d)のトリオ編成です。スタンダード曲で、実にアグレッシブな演奏を繰り広げており、ジャズを感じるには、このアルバムが一番でしょう。
ジャズのアルバム紹介では、彼女の代表作として、『Latin Shadows』(写真右)が紹介されることが多いのですが、選曲が当時のポップス系ヒット曲のカバーが中心で、弦も入っていて、ゴージャズなバックを従えての演奏ですが、どこかムード音楽っぽいアルバムです。気軽に聴けますが、ジャズを感じるにはちょっと、という感じですね。
なお、シャーリー・スコットは、1967年以降、この「当時のポップス系ヒット曲のカバー中心」の路線をひた走り、どのアルバムも「ジャズの雰囲気をベースにしたムード音楽」になってしまい、純粋にメインストリーム・ジャズ・オルガンを楽しむという雰囲気では無くなりました。加えて、1970年代後半からは、ピアノに進出し、オルガン半分、ピアノ半分になりました。そして、2002年の3月に逝去。
左手でベースラインを弾かない、単音中心のシンプルな演奏が個性的だったのに、実に惜しいですね。今一度、スタンダード中心の選曲で、彼女独特の、バリバリのメインストリーム系のジャズ・オルガンを聴いてみたい気がします。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
« ノンビリ、ホンワカなジャズ | トップページ | ウィントンの「考えるジャズ」 »
コメント