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2008年7月 2日 (水曜日)

ウィントンの「考えるジャズ」

梅雨なのでスカッと晴れないまでも、雨が降ることも無く、朝はとても涼しい、我が千葉県北西部地方。とにかく涼しい朝が続いていて、毎朝、飽きもせず、通勤する僕にとっては「やさしい」朝である。このまま、ずっとこの感じで秋になればいいのに(笑)。
 
最近、ウィントン・マルサリスのアルバムを聴きなおしている。マルサリスは、現代において、著名で、かつ重要なジャズ・ミュージシャンの一人。ジャズ・アット・リンカーン・センター(Jazz at Lincoln Center)の芸術監督を務めており、伝統的ジャズの再評価と復刻、保存、発展をテーマに積極的に活動している。

ウィントンは誤解されることが多い(その殆どが並外れた彼の才能へのやっかみが原因なんだが)。この伝統的ジャズの再評価と復刻、保存、発展についても、とやかく言われることが多い。まあ、ストイックなスイング、ビ・バップからハード・バップが「伝統的なメインストリーム・ジャズ」であり、エレクトリック・ジャズ、フュージョン・ジャズ、フリー・ジャズ、ファンキー・ジャズなどは、本来のジャズでは無い、という旨の、偏った発言をしたこともあり、誤解されても仕方がないんだけれど・・・。

やれ、ウィントンは頭でっかちだの、頭だけでジャズを演奏するだの、理屈で演奏するジャズは面白くないだの、上手すぎて面白く無いだの、すましていて小憎らしいだの、とにかく、ウィントンの様々な成果については、必ずと言って良いほど、「アンチ・ウィントン派」が必ずいる。

本当のところはどうなんだ、と思う時は、自分の耳で確かめてみる、というのが、正しい音楽ファンの作法だろう。例えば、今回、ご紹介する2005年8月にリリースされた『Live at the House of Tribes』(写真左)を聴いてみる。
 

Wynton_live_1

 
このライブ盤を聴くと、ウィントンの「考えるジャズ」が良く判る。演奏全体の雰囲気は「超絶技巧」。とにかく、メンバー皆上手い。しかし、その「超絶技巧」をひけらかすことなく、グッと抑えて演奏している。楽曲のベースは「ブルース」。ファンキーな雰囲気は、極力押さえ込まれ、音の裏側にうっすらと感じるだけ。

音の重ね方、リズムの取り方、アドリブの旋律、どれを取っても、過去に聴いたことの無い響きが全体を支配する。ところどころに顔を出す、デューク・エリントンに対するオマージュと、近代ジャズのルーツとされるニューオリンズ・ジャズからスイング・ジャズの奏法。ハード・バップの様に単純に受け渡されるのではない、実に検討され工夫されたインプロビゼーションの展開。

恐らく、このライブ盤の演奏は、現代のジャズにおいて、かなり新しい、先端を行く、「クール」な演奏だと思う。

でも、じゃあ判り易くて、親しみ易いかというとこれが「分かり難い」。それぞれの演奏曲についてだが、テーマがメロディアスでなく、メロディーが追えないのだ。つまり、一般の音楽ファンやジャズ初心者の方々が、このライブ盤を聴くと、凄く演奏は上手いということは判るが、何が素晴らしいのか、恐らく良く判らないだろう。「メロディーが追えない」、この事実がジャズを難しく感じさせる原因である。

このウィントンの『Live at the House of Tribes』は、ミュージシャンズ・ミュージシャンならぬ、「ミュージシャンズ・アルバム」だろう。プロのジャズ・ミュージシャンや年季の入ったジャズ・マニアには、このアルバムの意味するところが判るが、一般の音楽ファンには分かり難い、実に厄介なアルバムである。このアルバムは、決して、ジャズ初心者向けではありません(笑)。

とはいえ、現代ジャズの環境において「優れた演奏であるにもかかわらず、一般受けしない」というのは悪いことでは無いと僕は思う。これも「ジャズ」という音楽ジャンルの中の「ひとつの成果」である。聴きやすく、一般受けするばかりが「ジャズ」ではないだろう。このライブ盤を否定することは、ジャズのアーティスティックな面を否定することになる。

確かに売れないけれど、一般受けしないけれど、ここには、現代ジャズにおける、かなり新しい、先端を行く「クール」な演奏がある。でも、判り難いんだよな〜。
 
 
 
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