ちょっと反則なんだが・・・
先週の土日の梅雨の中休みの晴天から、今週はまとまった雨が無い。スカッと晴れることは無いんだが、空は明るくて、19時まで明るい。この夏至の季節は大好きで、この19時まで明るいって、なんだか一日の時間が長くなったように感じて、学生時代から大好きな季節だ。
さて、ジャズの話題。最近、久々に、チャールズ・ロイドの1960年代後半のライブアルバムを何枚か聴いた。チャールズ・ロイドと言えば、いずこからか、突如、フラワームーブメントと共に登場し、その「したたかなビジネス手腕」と「時代を見据えたアンテナ」で時代の寵児となり、「機を見るに敏な、いかさま商人」と言われる。
ちょっと厳しい言い方じゃないの、と思われる方もいらっしゃるかと思うが、実は、僕も長年、そう思っている。今日の話題となるロイドのライブアルバムである『Flowering』(写真左)や『Forest Flower』(写真右)を聴いていただくと判ると思うが、ロイドのサックスはまったくのジョン・コルトレーンのコピーである。
コルトレーンは晩年、フリー・ジャズに走り、情感を叩き付けるような、鬼気迫るフリー・インプロビゼーションを延々と長時間に渡って吹き続け、さすがのコルトレーン・ファンも、どんどんコルトレーンがら離れていった。当然、「機を見るに敏な」ロイドは、そんなフリーキーなコルトレーンのコピーはしない。
コルトレーンのトーンを真似ながらも、心地よく聴きやすく判りやすい「擬似コルトレーン」を演じることによって、聴衆の心を掴んだ。フワフワした音とコルトレーンそっくりの音色。そして判りやすいインプロビゼーション。
コルトレーン亡き後、「コルトレーンがこんな風に吹いてくれたら」という一般聴衆の願いをそのまま実現した、実に胡散臭いテナー・サックスである。特に、『Forest Flower』は、時折、ジャズ入門書にジャズ初心者向けの推薦盤として名前が上がっているが、なぜこのアルバムがジャズ初心者向けの推薦盤なのかが良く判らん。
「胡散臭いんなら何故聴くのか」と問われることが時々あるが、ジャズ鑑賞のマナーとしては、ちょっと反則なんだが、それはバックの演奏にある。この時代のチャールズ・ロイドのバックは、キース・ジャレット(p)、セシル・マクビー(b)、ジャック・デジョネット(ds)。なんと、キースとデジョネット(かの「スタンダーズ」のピアノとドラム)は、ここで出会っていたのだ。
チャールズ・ロイドがサックスを吹いているバックでも、このリズム・セクションの3人は、自分たちの好きなように演奏している風で、リーダーであるロイドのサックスを盛り上げたり、持ち上げたり、目立たせたりはしていない。と言うか、ロイドの音は聴いていない風。逆に、ロイドがリズム・セクションの変化に合わせて吹いているような、一種異様な雰囲気のライブである(笑)。
とにかく、ロイドのバックで弾きたおすキースのピアノは凄い。後に「スタンダーズ」で聴かれるキースの手癖、トーン、アプローチ、音色はしっかりとこの時期に、既に確立されているのが判る。良く聴き耳をたてると、この時期、もう既に「弾きながら唸って」います(笑)。
特に、ジャズ・スタンダードの曲でのキースのピアノは素晴らしい。後の「スタンダーズ」でのインプロビゼーションのプロトタイプがここで既に聴ける。キース・ファンの方には、一度、聴いていただきたいです。ここでのキースを聴くと、思わずニンマリとしますよ。
ドラムのデジョネットも同様で、さりげないポリリズムの中、間と密度を硬軟自在に織り込みながら、切れ込み鋭い、ピアノに絡むようなドラミングは、既にこの時期に確立されているのが判る。逆に、セシル・マクビーのベースは良いことは良いんだが、新旧のベースが入り混ぜとなった状態で、ちょっとキース+デジョネットのコラボレーションとの間には少し溝がある、というか、少しソリが合っていないのが残念。しかし、かなり尖った、当時において最先端のベースは迫力満点。
とにかく、このチャールズ・ロイドのリズム・セクションを張っていた、キース、デジョネット、マクビーのトリオは凄い。特にキースのピアノには納得する。「栴檀は双葉より芳し」である。
チャールズ・ロイドの「時代の寵児」としての時代の終焉は早かった。しかし、キースとデジョネットは、逆に、着実に一流への階段を上っていった。そして、1983年、ゲイリー・ピーコックをベースに迎え、伝説のピアノ・トリオ「スタンダーズ」として、最初のアルバムを録音する。それ以降の「スタンダーズ」の躍進は、ジャズ界の伝説となっている。
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