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2007年12月 3日 (月曜日)

更なるジャズの楽しみ方...

今日は、久しぶりに、J.J.ジョンソンの『ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1、Vol.2』を聴きながら、会社を往復。ブルーノートの1505番、1506番である。

ジャズという音楽ジャンルの歴史は長い。その長い歴史の中で、様々な演奏スタイル、演奏理論、他のジャンルとの融合など、ジャズ独自の音楽理論も確立されており、様々な研究も進んでいる。

どこかの評論家のように、ジャズの鑑賞について、単に「耳に心地良く、自らの好みにあった」アルバムやミュージシャンだけを選んで聴くということは、実に損なことに思える。自分の好みにあわないアルバムやミュージシャンは「聴く側と演奏する側の見解の相違」の一言でかたづけるみたいだが、それでは、プロのジャズ・ミュージシャンに対して、あまりにリスペクトの念が欠如している。失礼、無礼というものであろう。

同様に、この『ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1、Vol.2』をただ聴くだけでは、自らの好みに合う合わないでかたづけるだけでは、全く面白くない。このアルバムの歴史的な背景、ミュージシャンのエピソードなどを押さえることによって、更にジャズ鑑賞が楽しくなる。

さて、このアルバムが録音されたのは、1953年〜1954年。ハード・バップが育ち始めた時代である。1940年代後半、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーらが中心になって沸き起こった「ビ・バップ」という演奏スタイルは、その超絶技巧な演奏テクニックと難度の高いコード進行が特徴の「芸」であった。「芸」の世界は「流行廃り」が常である。1950年頭、ビ・バップは廃れつつあった。東海岸ジャズの暗黒時代である。

Jjjohnson

ビ・バップ全盛時代、トロンボーンの名手として名を挙げた、J.J.ジョンソンも例外では無かった。職にあぶれ、ジャズの将来に絶望した。28歳の若さで、第一線から身を引き、ロングアイランドで一般職に就く。たまに、声をかけられ、アルバイト的に録音に参加したりはしたが、基本的には机に向かう毎日が続く。

さて、ビ・バップの荒廃は、ビ・バップを基本に、ビ・バップの喧噪を脱し、演奏を「鑑賞する」こと前提に、聴きやすく、グループ表現を中心に、アレンジや作曲や演奏理論などの「芸術性」を全面に押し出した「ハード・バップ」を生む。

その新しい演奏スタイル「ハード・バップ」は、新進気鋭のミュージシャンを奮い立たせた。1953年〜1954年、一時、第一線から身を引いていたJ.J.ジョンソンは『ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1、Vol.2』を録音する。

『Vol.1』を聴けば、混沌と喧噪の「ビ・バップ」の影を残しながら、しっかりと後の時代につながる「ハード・バップ」演奏の特徴が色濃く現れる。1曲目J.J.ジョンソンの自作曲「ターンパイク」のテーマ部分のユニゾン、ハーモニーの新しい響き、そして、メンバーそれぞれが、交換し合い、絡み合い、そして、競い合う、グループ・サウンズの煌めき。2曲目「ラバー・マン」の美しいバラードの響き。曲によってはコンガを入れてアクセントをつけるアレンジの妙。アルバムを通して、十分鑑賞に堪える、アーティスティックな演奏が素晴らしい。

そして、『Vol.2』では、完全に「ハード・バップ」していることが判る。冒頭「デイリー・ダブル」の溌剌とした演奏。「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」「タイム・アフター・タイム」のバラード演奏の美しさ。よくアレンジされたユニゾンとハーモニー。テクニックと歌心が両立したインプロビゼーション。この『Vol.2』での演奏の響きは、完全に「ハード・バップ」である。

ジャズの歴史として、ジャズの演奏スタイルの内容を学び、「ビ・バップ」の演奏スタイル聴いて理解し、「ハード・バップ」の演奏スタイルを聴いて理解してこそ、この1953年〜1954年に録音された『ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1、Vol.2』が更に面白く楽しく聴けるというもの。

ジャズのアルバムを「自らの好みに合う合わない」でかたづけるだけでは面白くない。ジャズの歴史や演奏スタイル、演奏理論を押さえながら、はたまた、ミュージシャンのエピソードなどを押さえながら、ジャズのアルバムを聴き進めていくと、更にジャズ鑑賞が楽しくなること請け合いです。
 
 
 
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