『Clifford Brown and Max Roach』
初心に返って「名盤」を聴き直す。今日は、伝説のトランペッター、クリフォード・ブラウンである。ハード・バップ期初期の卓越したプレイヤーであり、「ブラウニー」の愛称で親しまれている。そのテクニックは唯一無二。マイルスを遙かに凌ぐ。今までのジャズ・トランペッターの中でも、ブラウニーに匹敵するテクニックを持つトランペッターは、ウイントン・マルサリスくらい。
しかしながら、このブラウニー、1956年6月26日、リッチー・パウエル(バド・パウエルの弟)の妻、ナンシーの運転する車にリッチーと共に便乗してフィラデルフィアからシカゴに向かう途中、ペンシルヴァニア・ターンパイクで交通事故死。25歳の若すぎる死だった。彼のディスコグラフィーを振り返ってみると、公のデビューが1953年だったので、彼の活動期間は、約3年程度だったことになる。当然、彼の残したレコーディングは多くない。
今回、久し振りに聴いたのは『Clifford Brown and Max Roach』(写真左)。1954年8月の録音。ブラウニーとローチの双頭バンドのスタジオ録音の初期。メンバーは、Clifford Brown (tp) Harold Land (ts) Richie Powell (p) George Morrow (b) Max Roach (ds)。ジャズ入門書では名盤の類として紹介されているが、はたしてそうだろうか。
冒頭の「Delilah」から、グループ・サウンドという観点からは、まだまだ一体感ができておらず、それぞれの楽器のバランスが良くないように思う。ブラウニーのペットは素晴らしい。そのテクニックとフレーズの紡ぎ出しは素晴らしい。しかしながら、少しぎこちない感がある。スタジオ録音ならではの緊張感が邪魔をしたか。
Richie Powellのピアノは淡泊で少しイマジネーションに欠ける感じがする。ローチのドラムはどこか不安定だ。唯一、ハロルド・ランドのテナーは良い。ランドは快調。久し振りに彼のテナーを聴いたが、なかなかのもの。彼のテナーがあって、ブラウニーのペットが映える。その対比が、このアルバム最大のハイライト。
25歳の若さで夭折。活動期間は僅か3年。ブラウニーの録音は少ない。その少ない活動期間の中で、名演を残すチャンスは僅か。よって、彼の録音アルバムの全てが、その内容が最高の水準を誇り、最高のグループ・サウンドを聴かせるとは限らない。
今回聴いた「Clifford Brown and Max Roach」は、残念ながら、一連の録音中のベストではない。他にもっと優れたブラウニーの演奏がある。彼のペットを核としたグループ・サウンドがある。たとえば、「Clifford Brown with Strings」「Study in Brown」「Helen Merrill with Clifford Brown」の3枚の方が、遙かに内容が優れていると思う。
それでも、ブラウニーのトランペットについては、素晴らしいの一言。確かに、アルバム毎に、若干の出来不出来はあるが、他のトランペッターと比べたら、彼の演奏の記録は、全てが、完全に抜きん出ている。
「名盤」を聴く。アルバム全体のグループ・サウンドを聴くことと、リーダー・ミュージシャンのソロ演奏を聴くこととは観点が違う。「名盤」の条件とは、アルバム全体のグループ・サウンドと、リーダー・ミュージシャンのソロ演奏が、共に最高の内容を示すことにある、と僕は思う。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
« 今日は谷津干潟まで「お散歩」 | トップページ | 30年経って評価が定まった。 »
コメント