懐かしのストックホルム
「初心に返る」というスローガンの下、ジャズの名盤・定番の類を聴いている訳だが、前の日曜日、映画「かもめ食堂」について書いた。この「かもめ食堂」の舞台は、フィンランド。この映画を観ていて、ふっと「懐かしのストックホルム(Dear Old Stockholm)」を思い出した。
フィンランドの首都はヘルシンキなので、なぜ「ストックホルム」なのか自分でも判らないが、とにかく、あのジャズ・スタンダードの中で、僕の好きなスタンダード・ベスト10にランクインする「懐かしのストックホルム」を思い出したのだ。ちなみに、ストックホルムは、スウェーデンの首都です。
「懐かしのストックホルム」を思い出して、どうしても「懐かしのストックホルム」を聴きたくなった。さて、「懐かしのストックホルム」の名演は、といえば、僕は、真っ先に「スタン・ゲッツ」を挙げる。
スタン・ゲッツの「懐かしのストックホルム」の名演が収録されているアルバムは「ザ・サウンド」(写真左)。1950年から51年にかけて録音された、スィング、ハード・バップ系統の秀作。LPでは、1950年にウディ・ハーマンバンドから独立して吹き込まれたのがA面で、ストックホルムで録音したのがB面。当然、「懐かしのストックホルム」は、B面に収録されています。
スタン・ゲッツのテナーを「線が細い」とか「弱々しい」と評する方もいますが、誤解も甚だしい。この「ザ・サウンド」を聴くと、確かに、コルトレーンやロリンズの音と比べると、大人しい音だが、芯はしっかりしていて、マイルドで優しく、ストレートに吹ききっている。
なにも、コルトレーンの様な、超絶技巧で咆哮のようなフリーキーな音や、ロリンズの様な、豪放磊落な野太い音ばかりが、ジャズ・テナーの音ではない。スタン・ゲッツの音も立派な個性で、このまろやかですすり泣くような音は、誰にも真似できない、ゲッツだけのスタイルである。
この「ザ・サウンド」は、彼の若い時期のサウンドが堪能できる一枚。彼の特徴は、奥底にしっかりと芯が入った音と奥行きのある、ふくよかで優しいサウンド。この彼のスタイルに、最高にマッチした演奏が「懐かしのストックホルム」。ゲッツのテナーが、原曲の味わいを損なわないどころか、原曲の良い雰囲気を高貴で洗練されたシンプルな演奏に昇華させている。僅か2分49分の短い演奏だが素晴らしい内容だ。良い演奏とは、曲の長さに左右されない。
同様に4曲目の「イエスタディズ」も、素晴らしい雰囲気のバラード演奏。これだけ、しっかりとしたバラード演奏は、なかなか聴けるものではない。ちょっと情緒不安定な時は、落涙してしまいそうな、そんな限りなく優しい演奏。
冒頭のちょっとハードな「ストライク・アップ・ザ・バンド」の演奏も良し。ハード良し、スロー良し、バラード良し。ゲッツは、ジャズ・テナーのスタイリストとして、ワン・アンド・オンリーな存在である。この「ザ・サウンド」というアルバムはその事実を「これでもか」というくらい見せつけるのだ。大名盤である。
僕が所有いるCDは限定盤として、紙ジャケット発売されたもの。世界初オリジナルCD化ということも手伝って、発売即完売したと聞く。買っておいて良かったなあ〜、と思ってはいるが、今はプラ・ケース盤などで手に入るのだろうか。
いつも思うことだが、この「ザ・サウンド」の様なアルバムは、常にリスナーの手に入る様に、定常盤化しておくべきだ。限定盤などで発売すべきではない。名盤・定番の類は、あらゆるジャズ・ファンに、平等に手に入れることの出来る環境を、レコード会社は提供するべきだと僕は思う。
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